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私の太極拳

東京陳式太極拳倶楽部が目指すもの そのニ

 私の所属している東京陳式太極拳倶楽部では、希望者には自由推手や散打(自由組み手)をやるが、まずお互いの信頼関係を確認した上で、時間と師範の止めの合図に従う以外、ほとんどルール無しで行なう。もちろん本気で打つことはしないが、接近戦で組討もありとなると相当危険であることはいうまでもない。だからこそ、勝ち負けにこだわるのではなく、習った技をいかに応用するかということを一番に考えて、その上実際に動いてみることを重視している。私の考える散手の意味はここにある。お互いの信頼がなくただ殴りあうと、怪我をするだけで何のための練習だかわからなくなってしまう。  しかし本質的には、力の弱い人、または特に強さを追及しているわけではない人が、合理的な方法で身を守ることができる、というのが武術であり、その点が体力があり、好戦的な人のための格闘技と一線を画するところなのではないだろうか。もちろんどんな技をもっていても普通の体格のものが、力があり格闘技の素養がある者とまともに戦って勝てるものではないことはいうまでもない。しかし、だからこそ力が小さなものが勝つために危険な技が必要になってくるし、それを使う技術も磨く必要があるのである。また、「護身」というのは、かならずしも自分を守るために相手に攻撃を加えることを意味するものではない。危険を避ける、相手に攻撃をさせないなどの自分の身を守る危機管理意識を、武術をとおして学べるのではないか、と私は考えるのだ。
 技術を磨くと言う意味で、套路練習はもちろん対人練習も当然必要であるが、太極拳には推手という非常に優れた対人練習の方法がある。これは、相手の力の方向や大きさにあわせて自分動きを制御することを学ぶたいへん合理的な練習なのである。推手がこのように自分の動きの制御のための練習だと考えると、たとえ一定のパターンで練習していても相手によって微妙な力の入れ具合の違いや体格差や相手の動きから生まれる間合いの違いから、自分の重心を崩されないようにするための微妙な動きが要求される。相手の動きを皮膚感覚で察知することは、触れていない散手においても役に立つ能力なのである。  太極拳のようにゆっくりとした練習法は意識と肉体のコントロールにとって非常に有効であり、「護身」と「護心」の融合がそこにはある。また推手もお互いが楽しみながら重心の崩しあいができ、ひとりで黙々とやる套路練習だけではない武術の楽しみ方がそこにはある。「護身術」として学んでもいても、今までように太極拳を楽しむことができるのだ。  新しい套路を次々と求めるのもいいが、もう一歩あなたのやっている武術を深めてみてはどうであろう。先人の智恵が、一つの伝統的な套路の中にはたくさん詰まっている。そこを探ってみることは非常にエキサイティングだ。
 東京陳式太極拳倶楽部は伝統の套路をただやっているというのではなく、戦うために先人が套路にこめた記号を、繰り返しの練習のなかで読み取っていこうとしているクラスである。戦うためにつくられた武術は、健康法や表演武術など、すべての発展的武術のルーツである。今あなたがどのような取り組み方で武術をやっていようが、原点を学ぶことは決してマイナスにはならない。  戦うという殺伐としたイメージの武術から、危機管理を学ぶ現代的な「護身(心)」術への発展、これが私たちの目指すところであり、願わくば社会に益する「東京陳式太極拳倶楽部」でありたいと願っている。